尚美ミュージックカレッジ専門学校 管弦打楽器学科
管弦打楽器学科[2年制]
音楽総合アカデミー学科管弦打楽器コース[4年制]

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課題曲のすべて

V.ビスマス・サイケデリア I(日景 貴文)
<課題曲5>天野正道&大井剛史 両氏による対談

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天野:日景さんの作品です。これも良い曲ですね。素晴らしい。

大井:よく書けてる。

天野:久々にこれを描いて分析しました。(図を見せる)

大井:これは...なんですか?

天野:我々作曲家が現代音楽作品の分析をする時に使うんですけど、円を描いて12分割して、各音を当てはめるんです。これで、和音であったりスケールであったりを塗っていくと、いろいろな形が見えてきて、視覚的に理解しやすいんです。例えば移高が限られた旋法(移調の限られた旋法)の第2番があるじゃないですか、いわゆる半音と全音を繰り返す8音音階。今となっては当たり前のように使われるスケールですけど、その場合は、黒黒白黒黒白の繰り返しになるので、視覚的にすぐ分かるわけですよ。

大井:おお、なるほど。

天野:これは我々が日頃からよく使っていて、12音を均等に扱う曲の場合、五線上では見えにくい音高の関係が、視覚的に分かるのでオススメです。移調(移高)した場合でも同じ模様になるわけだから。

大井:なるほど。

天野:それにしても、この曲、本当によく書けてますね。

大井:作曲者本人は、これは(作曲賞に)通ると思ってなかった、って言ってたけど。

天野:まあ確かに日景さんって、今までどっちかと言うと調性のある曲ばっかり書いてたイメージがあるんだけどねえ。

大井:ちょっと課題曲ということを念頭に置いてないようなところがあると思って...。

天野:だから面白いんですよね。

大井:ちなみにstagger breathingって言うのは、僕は基本的に同一パートの演奏者が複数いて成り立つものだと思っているんですが。

天野:彼の発想は違うんですよね。

大井:違うのかな?

天野:たぶん。だってそうじゃないとねえ、本来は(同一パートに奏者が)複数いないとありえないんだから。

大井:つまりホルンが8人いないと演奏できない。

天野:はい。

大井:楽譜の要求をすべて満たすと、コンクールに出られない(笑)。

天野:人数超過で失格になりますね(笑)。

大井:でも、こうとしか書けなかったのも分かります。

天野:もしかしてstagger breathingって、いわゆるカンニングブレスになるわけだから、普通は同一パートに複数人いてやるんだけど、もしかして「適当に音抜いていいよ」ってことなのかなあと思っちゃったんですよ。

大井:そういうことになるのか。でも、そう書くかなあ。

天野:でも、そういう風に解釈しないと、コンクールで演奏できないもん、これ。

大井:いや、そうなんですけど(笑)。


天野:良い曲の譜面っていうのは、まず楽譜が絵になるじゃないですか。

大井:はい。

天野:この曲もね、最初にスコア貰った時にパーッとこう眺めてね、壁に張っておいてもいいなあ、というぐらいの美しさなんですよ。模様として。

大井:ははは(笑)。

天野:で、この前の東京佼成ウインドの演奏を聴いて思ったんだけど、参考音源とはまるで別の曲に聴こえたんですよね。

大井:いや、まあ、ソリスト的な意識が強いじゃないですか、佼成ウインドの方々は。

天野:はいはい。

大井:それでこの曲は、全部バラバラじゃないですか。だからそれぞれの奏者のキャラクターが立っている我々によく合ってるのかな、とは思いました。

天野:ああ、なるほどね。

大井:みんな自己主張が強いんです。だから、そうやって演奏した方が面白いんだと思います。ブレンドとかじゃなくて。

天野:あと、このテンポ設定も面白いですよね。結局は♩=104なんですよね、すべて。

大井:2017年の「メタモルフォーゼ」っぽいですね。

天野:あとやっぱり、音の構成の作りも面白いですよね。前半はいわゆる半音進行で上がってくようなパターンがあって。そういう意味で不協和音って簡単に言っていいんですけど、凄く乱暴な言い方になるけど。それで[B]のパターンがちょっと楽譜が整然とするじゃないですか。

大井:はい。

天野:それでまた、[C]から[A]に近い雰囲気になってくるんだけども。この辺で、その半音進行で上がってくやつと、もう一つ面白いなと思ったのが、トロンボーンセクションのパターン。3連符と4連符(16分音符)が入ってる形。これの和音の持って行き方が、2ndと3rdの音程関係が5小節目で短3度だったのが、長2度、短2度って変化してくあたり、遊びって言ったら失礼かもなんだけど、よく考えられてるなと思いますね。それから[C]の低音の形は、冒頭にもあったけど、ここではフレーズが短いと言うか、1小節ごとになるから目立つようになるじゃないですか。こういうところも考えて書いてるしねえ。そうれからそれから、ユニゾンのHに向かっていくところがあるじゃないですか、34小節目あたりから。だけど、ベースは頑なにAをやってるというね。そこに、38小節目からホルンが全く別のスケールで、ちょっと多調のような感じで、こういう風な作り方も、いやあ面白いなあと思いましたね。それで、このHが連続していった理由ってのが、まあ作曲者はどういうつもりだったのか分からないんだけど、[F]から、ハーモニーの作りが別世界になるじゃないですか。ここに行くために、上手い具合にHを利用してたんだなって。これ凄いなあと思ったんですよ。特に[F]の3小節目のSax.セクションなんて、全然違う音列のパターンになってる訳だから。だから作曲技法的にもね、かなり面白いこと考えて書いてますね。

大井:日景さんの譜面、何曲か送ってもらって読んだり聴いたりしてたけど、こんな曲も書けるんですね。作風広いなあ。

天野:いやあ、素晴らしいと思う。

大井:で、これを「課題曲」として見たときに高校生がどうやって練習するのかな、ってことに興味があります。プロだと3日くらい練習してすぐ本番、なので楽しかったけれど。例えば冒頭の半音階の上行音型を「お前速いだろ、お前は遅い、お前はcresc.しすぎだ」ってやるのも...。

天野:でも、そういうとこ多いでしょうね、きっと。正確に合わせてー、メトロノームかけてー、反復練習ー...。

大井:まあ練習の仕方は工夫しないといけないですね、合奏のやり方も。ちなみにこの上行音型は日景さん曰く、エッシャー(Maurits Escher、オランダを代表する版画家)のだまし絵のように書いたと。

天野:無限音階というかね。

大井:そうそう、だからcresc.の行き先はたとえfと書いてあっても、アクセントのようにしない方がいいと。

天野:その方がいいでしょうね、終わりがハッキリ分かると無限音階じゃなくなっちゃうから。ビスマス鉱石から、この発想が生まれるというのが興味深いですよね。


天野:[B]のところは、縦線の揃え方、難しいですね。

大井:そうですね、指導する先生が悩まれている様子が目に浮かびますね...。これは1拍目と3拍目で合わせるようにしないと。

天野:そしたら簡単にできるんですよ。

大井:ただ、指揮する方としては、1小節を2つで振ってしまうと、ホルンやグロッケン、マリンバみたいなパートがどうにもならないので、4つで振る。でも2拍にまたがる連符のパートの人は2拍目と4拍目は「指揮を見ない!」(笑)


大井:冒頭のTubaの6連符は、ハーモニクスグリッサンドでもいい、みたいなこと言ってましたね。

天野:自然倍音列だから、リップスラーでやった方がいいかもしれないですね。

大井:どっちでもいいみたいなこと言ってました。技術によって。

天野:確かに。

大井:あとは、ホルンのゲシュトップは、見た目には凄く聴こえるように見えるけど、実際には全然聴こえないんで、ゲシュトップミュートを使っていいと思います。

天野:その方がいいでしょうねえ。手でやると音程も定まりにくいし。そもそも手の大きさによっては難しいし。持ち替えが難しいところはともかく。


天野:それから、この曲はマリンバの音域が結構高いんですよね。ほとんどシロフォンの音域で書かれているから、マレットも普段より硬めの方がいいんじゃないかなって。

大井:なるほど。


大井:[C]の辺りとか、どうやって練習するんだろう...。あんまり練習しないってのも手ですよ(笑)。

天野:あー(笑)。

大井:まあ例えば、トランペットやトロンボーンのパート練習は効果的だと思います。それから打楽器のパート練習も凄い意味がある。そういう練習はたくさんやって、tuttiの時は、「お前合ってる、合ってない」じゃなくて、もうちょっと雰囲気的なことについて考えないと、効率の悪い合奏の時間になるんじゃないかと思います。

天野:そうですね、あと低音楽器のパート練習も良いと思いますね。

大井:あと、サスペンディッド・シンバルについていろいろ作曲者に訊いてみたんですけど、「cup」と「cup area」が出てくるじゃないですか。これはどう違うのかって話になったんですけど、どうやら同じみたいです。

天野:エリアの方がちょっと広いのかと思ったけど、そういう訳じゃないんですね。あとは、アンビルが効果的に使われてますね。ただ、2ついるから。

大井:アンビル業界が潤う!

天野:どこかから線路切って来ないと(笑)。あと、カウベルも3つ使うから、スタンドが必要かなあと。打楽器が一番面白いんですよね、この曲。[D]の1小節前から、コンガとボンゴのパターンがあるじゃないですか。これと似たようなパターンをそのあとシロフォンでやったり、整合性つけてるところもあるわけですよ。こういうちょっとしたところをよく考えていて、思い付きで書いてるんじゃないんだなって見えるからね。

大井:そうですね、指揮者的には、とにかく「正確に」振りましょう。

天野:それから、短い音だけどハーモニーになってることが多いじゃないですか。スタッカートは付いてるけど、ある程度、音程が聴き取れる音価は確保しないと。アタックだけにならないように。

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大井:そうですね。[G]の1小節前のコントラバスに、flageoletでmolto sul ponticelloがあるじゃないですか。どっちなのか。というか、sul pont.にしたら倍音が出なくなっちゃうじゃないですか。

天野:このEの音をA線で取るとしたら、絶対出ないですね。

大井:それで、何が欲しいのかって話になって、アタックのときは、ちょっとガリっというかギィッっていう音が欲しいんだけど、そのあと伸びてる間は、ハーモニクスが欲しいということでした。

天野:ということは、発音したあとにちょっとずらすってことですか?

大井:ぜひこれは、プロの奏者に聴いた方がいいですね。どうやるか。

天野:あえてE線でやってみるとかね、難しいかな。

大井:E線では、やっぱりちょっと難しいみたいですね。

天野:そうか、コントラバスにも面白いこと書いてますね。


天野:[F]からは、音の構成がガラッと変わってきて、面白いですよね。いわゆる「ドレミファソラシド」を使ってはいるんだけど、主音が存在しないと言うか、なんでもいいからその調の音を使うような。

大井:なるほど。

天野:上行音型とか下行音型が出てきても、半音階じゃなくなってますからね、この辺ずっと。それで[J]からが移高が限られた旋法(移調の限られた旋法、MTL)の第2番がモロに出てくるわけですよ。半音-全音-半音-全音...の。だから、どんどん和音構成とか音の扱い方が変わって、色も変わってくじゃないですか。鉱石がキラキラと色が変わっていくような発想なんでしょうね。

大井:ビスマス鉱石の見た目から、見事に音にされてるなと思います。

天野:素晴らしい描写ですよね。

大井:[J]のところは、フルートのモティーフはよく聴こえるんだけど、トランペットの方がちょっと聴こえづらいですね。フルートはアクセントのあとちょっと抑えて、響きを譲ってあげないと。

天野:トランペットはミュートしてますからね。あとはこの辺から16分音符の動きがしっかりあるから、今までと違うビート感が見えてくるじゃないですか。これもよく考えてますよね。

大井:楽しいですよ、演奏してて。

天野:それで[L]で3連符と混ぜてて...これはイントロのとこにもありましたよね。そういうとこの要素もさりげなく出してるから、これはスルメみたいな曲で、読めば読むほど味が出てくるってやつですよね。


天野:[M]からの変拍子は、生理的にやりやすい変拍子なんですよね。

大井:ええ、そうですね。

天野:嫌な変拍子ってあるじゃないですか。これはやりやすいですね。

大井:はい。ただ、打楽器の人たちが生命線になるので、いいタイミングで演奏したいですね。カウベルが遅れたりすると...。

天野:もう崩れちゃいますね。そういう意味では審査しやすいですよね。


天野:[N]からの5/8拍子になってstrettoがかかってくような感じの盛り上がりもね、凄く考えてるしね。[O]はちゃんと2拍溜めてffでtuttiですね。

大井:この、最初の2拍が凄く大切です。[O]直前の音をストップしてしっかりキメないと、[O]の音のエネルギーが出せないですね。

天野:そうです、この2拍の休符さえしっかり認識してれば、次の音は汚くならないで済むはず。油断しちゃうと、次の音も荒れちゃうでしょうね。音自体はグシャっとした和音なんだけど、ちゃんと響かせられるかどうか。そのあとからまた、スコア的には模様がとっても綺麗になるようになってるんだけど(笑)。

大井:全国のバンドディレクターの皆さんが「お前ー!遅れてるじゃないかー!」って怒鳴ってる姿が目に浮かびます...。

天野:面白いでしょうね(笑)。

大井:ただね、ここはTimp.が難しいみたいですよ。

天野:確かに難しい。

大井:このスネアとハイハットのリズムは、[B]のところに出てきてるんだけど。

天野:コントラバスは4分音符だけど、ロングトーンだとff持続できないからってことでこうなってるだけで。

大井:これはねえ、「みんなコントラバス聴いてね」ってのはまず無理だからな...(笑)。

天野:一番ボリュームが出るようにこう書いてあるだけで。

大井:パーカッションのアクセントが書き分けてあって、山型アクセントのところでフレーズを締める、そしてまた3拍目からまた新しいフレーズっていうのを意識したいですね。

天野:それがちゃんと見えてくれればいいですね。それで、最初は同音反復だったのが、だんだんグシャグシャグシャグシャとなってくじゃないですか。これもまた、最後に向けて凄いとこですよね、素晴らしい。それで意表を突いた消え方。

大井:この最後のクラリネット、ちょっと前から吹いててもバレないんじゃないかな、こんなこと言っちゃいけないけど(笑)。

天野:いや、でもそれしかないと思う。4拍目ジャストでpppで出るのは結構難しい。

大井:3拍目くらいからpppppで入ってクレッシェンドして...。

天野:その方がいいと思います、他のパートがいなくなったところで認識するって形になるから。ジャストで出ようと思ったら遅れてしまいそう。

大井:うん。奏者の方は絶対ビビると思うから、少し前から軽く吹いてた方がいい気が...。

天野:その方がいいでしょうね。


天野:いやあ、でもね、日景さん、本当にいい曲書きましたよ。

大井:最後に「remain motionless over 5 sec.」って書いてありますが、そもそもこの曲、終わってすぐには身動きできないですって。

天野:すぐ動けたらおかしいよ、それは。緊張感の塊で終わってるわけだしね。この最後をアンビルで締めるってのもまたいいですね。全体的に演奏の難易度はそれほどでもないんじゃないかな。

大井:そうですね。指揮者は、特に前半と最後の部分は、音楽が、というよりも、きっちりタイムを...。

天野:キープすることに徹しないと。まあでも高校生とかだと9月頃にはきっと指揮者なしでピッタリ合うようになっちゃうでしょうからね。恐ろしいね。

大井:恐ろしい...(笑)。

【天野 正道】
国立音楽大学作曲科首席卒業、武岡賞受賞。同大学院作曲専攻創作科首席修了。在学中よりクラシック、現代音楽はもとよりジャズ、ロック、民族音楽から歌謡曲まで幅広い創作活動を行う。卒業後オーストラリアに赴き日本人で初めてC.M.I.(Computer Music Instruments)をマスターし、日本におけるコンピュータミュージックの第一人者の一人となる。多くのアーティストのアルバム、映画、アニメ、ビデオの音楽、数多くのCM、TVの音楽制作を行っている。2000年、第23回日本アカデミー賞音楽部門優秀賞受賞。2001年、第24回日本アカデミー賞音楽部門優秀賞受賞。2000年、第10回日本吹奏楽学会アカデミー賞受賞(作・編曲部門)。尚美ミュージックカレッジ専門学校特別講師。

【大井 剛史】
東京藝術大学指揮科を卒業、同大学院指揮専攻修了。 東京佼成ウインドオーケストラ正指揮者。国内の主要なオーケストラを指揮し、いずれも高い評価 を得ている。現代作品、オペラ、バレエなど幅広い分野で活動中。2008年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクール第2位。東京藝術大学音楽学部器楽科非常勤講師(吹奏楽)。尚美ミュージックカレッジ専門学校客員教授。

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