HARMONIE - 尚美ミュージックカレッジ専門学校 管弦打楽器学科

バンドジャーナル連動企画 小澤 俊朗&伊藤 透 スペシャル対談 (3/3)

――ここからは「吹奏楽」についての話を掘り下げて行きたいと思います。中高ではものすごく吹奏楽が盛んですが、その後の「受け皿」という点ではいかがでしょうか。

小澤:最近は社会人のバンドがいっぱいできてきていますよね。それにまだ少数ですけど、ママさんバンドや、お年寄りの方々が集まっているシルバーバンド…アメリカではニューホライズンバンドと呼んでいます…が出てきています。私もアメリカでニューホライズンバンドを見学に行ったことがあるんですが、とっても雰囲気がいいんですね。やってる曲は本当にやさしい、小学生の初歩くらいの曲なんだけど、和気あいあいとしている。そいう意味で、日本の吹奏楽でも生涯学習みたいなものができるんじゃないかな、と思います。社会人バンドでも「コンクール大好き」っていうところもあれば「コンクールには出ないけど楽しくやっている」というところもある。受け皿としての選択肢もいろいろあると思いますね。

――ヨーロッパなどでは「おじいちゃんが孫に…」というように、世代を越えて何かを教えてもらえるというのが一般的ですよね。

小澤:そういう、大人が次の世代に楽器を教えるシステムみたいのができあがっていますね。日本でも「ピアノを習います」「バイオリンを習います」という子は結構いますが、管楽器はというと、部活に入ってから先輩に教えてもらう、そしてある程度手ほどきを受けたら自分なりにやる、っていう人が多いような気がするんです。高額なレッスンじゃなくても、街の習い事と同じようなシステムが一般化してくると、吹奏楽でももっと花開くものもあるのではと思います。

オリジナル曲の必要性

――吹奏楽の発展のためにはオリジナル曲、「オーケストラの借り物ではない」作品の必要性もあると思います。新しい日本のものが望まれている一方で、現代音楽的なものには「うーん」となってしまう人もいると思いますが、その辺はいかがでしょうか。

伊藤:そういう点では、小澤先生は「響宴」というものを立ち上げて新しい作品の普及に尽力されていますね。

小澤:かつてはコンクールにしても演奏会にしても、プログラムに並ぶのはほとんどが海外の作品、または海外の編曲作品でした。例えばアメリカやスペインのバンドが日本に来て演奏会をひらくという時に我々が聴きたいのは、アメリカならアメリカの、スペインならスペインの音楽ですよね?では日本のバンドが海外に行って何を演奏するかというと、昔は「八木節」「さくらさくら」ばかりだった。でも、「それだけでいいの?これが自分たちの文化ですと言える作品がもっと必要なんじゃないの?」ということで10年以上も前に始めたのが響宴です。

――最近はずいぶん日本の作品が増えましたね。

小澤:編曲だとほとんどが日本人のもの、オリジナルでもかなり日本人の作品が演奏されるようになりましたね。あとは出版。ここがまだうまくいっていないですね。海外にもレンタルというシステムはありますけど、あれは特殊なもので、一般的なものじゃないもの、出版しても大学の一部しかやらないようなものだけがレンタルなんです。ライブラリに置いておいて、いつでもやりたい時にそこから引っ張り出して楽しめる、というのがやはり基本。日本はまだレンタルが主流ですよね。

伊藤:コピーが横行しちゃうからですね。

小澤:そういうマナーの問題がこれからの課題ですね。

――いわゆる「現代音楽」についてはいかがでしょうか。オーケストラの場合でも、初演はされるけど再演はされない、というものもありますがそれでは普及は難しいですよね。

現代作品への興味

小澤:「現代音楽」というと「調性感が無くてわからない」「つまらない」と意見が出る場合がありますが、逆に言うと、まだそういう作品のおもしろさに気づくプロセスが出来ていないのかもしれない。吹奏楽をやる子どもたちは毎年増え続けていますが、そういう人たちの一部でもいいから、現代作品に興味を持つようになってくると、日本の音楽がますます広がってくるんじゃないかと思いますね。

伊藤:あとは日本人的なアイデンティティーをどう盛り込むかですよね。あまりにもアメリカナイズされた響きや、コンクールで演奏されることを前提にした曲がまだまだ多いかな、という感じがしますね。

小澤:そういう部分をリードするのは、やはり音楽の教育機関の役割だと思いますね。「啓発」という意味もありますし。アマチュアの団体だと難しい。

伊藤:かつては「吹奏楽はマーチだけやっていればいいんだ」なんていう人もいましたが、音楽学校として、吹奏楽の発展のための研究活動・啓蒙活動は積極的にやらないといけませんね。
そしてもっと一般の人にも吹奏楽を触れられる機会があるといいですよね。たとえばオーケストラであれば有楽町の東京国際フォーラムで「ラ・フォル・ジュルネ」というのが始まって、何十万人もの人を呼べている。去年は金沢でも開催されましたが、そういうのが吹奏楽でもあれば面白いと思います。「銀座パレード」や「御堂筋パレード」でも何万人もの人が見に来ていますよね。小澤先生いかがですか?

小澤:JBA(日本吹奏楽指導者協会)あたりも、11月3日を「バンドの日」にしよう、「駅コン」でもパレードでもコンサートでも、とにかく11月3日に全国各地がバンド一色になるようなイベントをしようよ、という提案をしているところのようです。

伊藤:それはおもしろいですね。演奏者だけが楽しむんじゃなくて、聴きに来ているお客さんも楽しめるイベントになると良いですよね。

対談風景

――最後になりますが、「吹奏楽」ということばは、ジャンルを指すことばとしても編成を指すことばとしても、あいまいなところがあると思います。そこに対してのご意見を聞かせていただけますか?

伊藤:ポップスもジャズもクラシックも演奏するし、コンサートからマーチングまで演奏形態も変化する。それがすべて「吹奏楽」と呼ばれるという意味ではあいまいですが、逆にその「多様性」こそが吹奏楽の魅力だと思います。

――それらのすべてが尚美には用意されているということですね。

伊藤:そういうことです。

――ありがとうございました。

制作:HARMONIE編集部
(ご意見・ご感想は c-wind@shobi.ac.jp までお寄せください。)

小澤 俊朗
管弦打楽器学科 客員教授

日本を代表するバンドディレクター。
神奈川大学吹奏楽団音楽監督、
日本管打・吹奏楽学会最高執行役員、
日本吹奏楽指導者協会常務理事、
日本バンドクリニック委員会代表、
~21世紀の吹奏楽~「響宴」実行委員長。
伊藤 透
管弦打楽器学科 学科長

東京藝術大学卒業。
石川県音楽文化振興事業団音楽マネジメントアドバイザー、ラ・フォル・ジュルネ金沢2009企画運営委員。