尚美ミュージックカレッジ専門学校 管弦打楽器学科
管弦打楽器学科[2年制]
音楽総合アカデミー学科管弦打楽器コース[4年制]

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【学科長コラム】 第61回 ミッドウエスト・クリニック に行ってきました。(3)

2007年12月17日〜25日まで、東京ミュージック&メディアアーツ尚美 学務学生部から依頼を受けて、アメリカ(ニューヨークとシカゴ)の音楽事情を視察してきました。その中から、シカゴで開催された「ミッドウエスト・クリニック」の様子をレポートにまとめます。
(管弦打楽器学科 科長 伊藤 透)

【もくじ】
・第61回 ミッドウエスト・クリニック に行ってきました。(1)
・第61回 ミッドウエスト・クリニック に行ってきました。(2)
→第61回 ミッドウエスト・クリニック に行ってきました。(3)
・第61回 ミッドウエスト・クリニック に行ってきました。(4)

●クリニックの様子や資料展示

○Your Band or Orchestra Flute Section REALLY Can Play in Tune !
会場ではたくさんのクリニックが同時にいろいろな所で開催されます。Waldorf Roomでのフルートクリニックをのぞいてみました。
フルートのオーケストラスタディーやバンドスタディーのような内容の講座で、基礎的な音だしの確認から楽曲のアナリーゼやアンサンブルテクニックについてのレクチャーが行なわれていて受講者も多く、大変熱心でした。

○資料展示
クリニックに参加したオーケストラや吹奏楽団、ジャズ・バンドなどの活動紹介や学校紹介等の資料がたくさん置いてあります。事前にそれぞれの団体が工夫して制作したものとのことです。日本のバンドクリニックでは事前にパンフレットを送ると主催者の方で手提げバックに入れてくれますが、ここではあまりにも数が多いのか、「興味ある団体のものをご自由に」というアメリカ流。

●ミッドウエスト・クリニック初日にあわせて行なわれた
イリノイ大学ウインド・シンフォニーの演奏会レポート

イリノイ大学のバンドディレクターとして長年活躍したジェームズF.キーン教授の引退コンサートが、シカゴ交響楽団のホームグランドであるシンフォニー・センター・オーケストラ・ホールで開催されました。このバンドはイリノイ大学の管打楽器専攻生のなかで、最高レベルに達成した学生と大学院生で編成される約60人のウインド・アンサンブル。国内はもちろんのこと、イギリスにも遠征し高い評価を獲得しています。最近ではアメリカ東部にも演奏旅行し、ニューヨークのカーネギーホールでも公演を行なっています。録音も大変盛んに行い、Mark Recordings社から多数のCD等を発売したほか、日本の東芝EMI社からもCDを出し、日本の吹奏楽ファンにも知られています。

ILLINOIS Wind Symphony University of Illinois
James F. Keene, Conductor
[日時]2007年12月19日(水)20時00分開演
[会場]シカゴ シンフォニー・センター・オーケストラ・ホール
[演奏]イリノイ大学ウインド・シンフォニー
[指揮]ジェームズF.キーン

<曲目>
Wild Nights!  Frank Ticheli(2007)
Roma Sacra Luigizaninelli(2007)
Symphony in Bb Paul Hindemith(1951)
Convention of the Cordials John P. Sousa(1909)
Slalom Carter Pann(2003)
Liebestod from Tristan und Isolde(1858)
Fantasia in G Major J.S. Bach(1707)
Bells for Stokowski Michael Daugherty(2002)

キーン教授の退官コンサートということもあって、会場はイリノイ大学関係者が多かったように感じました。また、会場から少し離れたヒルトン・ホテルでは「ミッドウエスト・クリニック」が開催されており、事前にチケットを予約してコンサートに駆けつけた吹奏楽指導者も多くいました。会場となったオーケストラ・ホールは、世界屈指のオーケストラといわれたシカゴ交響楽団の本拠地としてあまりにも有名ですが、音響は決して良くはありません。全体にデッドな響きは管楽器にとってやさしいホールとは言えないでしょう。

当日の曲目ですが、新作を2曲入れて、バンドの有名なオリジナル曲からバッハまで幅広いジャンルの曲を見事に表現していました。日本とは違い、あえてコンクールの課題曲などを演奏したりしなくても、吹奏楽で十分楽しめる内容でした。指揮者のキーン教授も意欲的な新作2曲を手堅く指揮し、退官とは思えない存在感を感じさせていました。新曲を発表した作曲家も来場し、演奏会に華を添えていました。

また、当日は客演として、同大学でオーケストラを指揮しているDonaldo Schleicher氏が一曲指揮しました。本来であれば前任者のHarry Begian 氏(イリノイ大学名誉バンドディレクター)も客演指揮する予定でしたが、ミッドウエスト・クリニック関係で当日キャンセルになってしまった事は大変残念でした。演奏は個人の高い演奏能力とアンサンブル能力がうまくマッチした素晴らしい演奏でした。

この演奏会を通じ、音楽の方向性を多方面から考察して言えることは、ひとりよがりにならず価値観の多様性を認め合うという意味での吹奏楽のレベルアップとアプローチの仕方、それをまとめるプロデュース能力の必要性を強く感じさせられたということでしょう。

●ミッドウエスト・クリニック最終日の夜に行なわれた
シカゴ交響楽団の演奏会レポート

フランス生まれの若手指揮者として活躍しているルドヴィーク・モルローの指揮で世界屈指のオーケストラの一つであるシカゴ交響楽団の演奏会を聴く事ができました。シカゴ交響楽団といえば、ホルンのファーカス 、トランペットのハーセス、トロンボーンのフリードマン、テューバのジェイコブスといった歴史に残る金管楽器の名プレーヤーが揃い、世界一強力なブラス・セクションとして、この交響楽団の一時代を築きました。

指揮者のモルローは2005年にオーケストラ・アンサンブル金沢第181回定期演奏会で来日しているようですが、勉強不足な私としては初めて見る指揮者でした。決して派手だったり、威厳があったりという感じではないのですが、要所をよくまとめた的確な指揮という印象です。

オーボエのユージン・イゾトフは、1973年にロシアに生まれ、これまでメトロポリタン・オペラ・オーケストラ、サンフランシスコ・シンフォニー等の首席奏者として活躍してきました。2005年にダニエル・バレンボイムの推薦によってシカゴ交響楽団の首席奏者に指名され、ロシア生まれ初のメジャーオケ首席として一躍注目を集めました。日本にもバーンスタインの提唱で1990年に札幌を主会場に始まった、パシフィック・ミュージック・フェスティバルの教授として来日しています。
彼の透き通った音色と的確なテクニックとがあいまって、その安定感のあるモーツァルトの演奏はほとんど完璧に近いと言っても過言ではなかったと思います。オーケストラのサポートも見事でした。寒いシカゴの夜に、本当に心がホッとするような素晴らしい演奏に大満足でした。

また、今回の演奏会は曲目がとてもポピュラーな名曲ばかりで、リラックスして楽しめました。「アルルの女」のフルートのソロも抜群。オーボエのソロといい、シカゴ=ブラスというイメージも少し変わってきたのかなと感じました。ただ、ホールの響きがいまひとつだったので(というよりも、むしろ最近は響きの良いホールが多くなってきたので)、今後そのあたりも考えていかないと、楽団の方向性も難しいのではないかと思いました。いずれにせよ、前日まで吹奏楽の新譜をガンガン聴いた私の耳には、大変心地よいアメリカ最後の夜(?)にふさわしい至極のひとときでした。

>>「第61回 ミッドウエスト・クリニック に行ってきました。(4)」へ続く。

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