尚美ミュージックカレッジ専門学校 管弦打楽器学科
管弦打楽器学科[2年制]
音楽総合アカデミー学科管弦打楽器コース[4年制]

2012年度全日本吹奏楽コンクール課題曲のすべて

SHOBI講師陣による課題曲講座

 

V. 香り立つ刹那(長生 淳)

天野正道先生・佐藤正人先生・渡辺由美子先生による鼎談

佐藤―― 個人・合奏共に高度な技術が要求されていますね、でも、音楽的魅力のある曲です。課題曲という作品を通して、技術と表現が一体となった演奏のために大切なことを知ることができるはず。

天野―― 音の構成、流石だね。poco riten. a tempo を多用して拍子感を感じさせなくしている。短い時間の中での>(dim.)や<(cresc.)、これは演奏者によって様々な表現が可能ということだね。コンクール的な演奏、つまりタテやヨコがあっているとか、サウンドがどうであるとかより、総合的な表現力が大事。

佐藤―― そうですね、音がなくなる(4、6、8~16小節、48、85、95~小節等)一瞬の「間」も大事。強弱やアゴーギク、スコアからちゃんと読み取って演奏しないと。音を並べる作業に終始するだけでなく、作曲者が音符に込めた意図を辿っていくことも必要。

天野―― サウンドの変化もすごく出るね。リズム的に正確に読み分けることが大事になってくる。セクションで動いている部分や各楽器が独立した声部、サウンド、強弱の変化、様々な組み合わせで表現されている。

佐藤―― 個々で合奏の前に、スコアから自分の音の役割や楽器から楽器へ受け渡されている旋律、楽器の組み合わせを把握することはすごく大事。

渡辺―― この曲はフルスコアもコンデンスも必携ですね。細かいことも大事ですが、全体も見ないと。

佐藤―― はい。スコアを練習室の壁に拡大して貼って、同じ動きを確認したり、合わせる予定を決めたりしていました。

渡辺―― 良いアイディアですね。 全体に結構拍子の変化が難しく感じます。

佐藤―― 小節内の各拍に線を入れると拍節感が捉えやすくなるはず。

天野―― そうだね、前半は8分音符単位だから、対応できるかな。速くなってからの13/16は、やり易い「字余り」なので、慣れれば大丈夫。

渡辺―― そうですね。管楽器と完全にアンサンブルしないと。打楽器の並べ方も工夫が必要。

佐藤―― 終わりの方、ドビュッシーに似ている感じがします。「おもちゃ箱」、じゃなくて、「映像」でもなくて、う~ん、「遊戯」かな?

天野―― そうそう、作曲者が、吹奏楽連盟の会報に書いていたよ、「Jeux(遊戯)」に影響されたと。

佐藤―― そうでしたか。初めに見ればよかった。私もドビュッシー好きなので何種類も持っています。「映像」「版画」といったピアノ曲やオーケストラの作品を聴くのも良いですね。
(※参考:作曲者はマルティノンとブーレーズの演奏について後述。参考までに、第2次大戦後、ブーレーズ、シュトックハウゼン等が《遊戯》の特徴である「絶え間ないテンポの移行と、瞬時に輝きを変えていく音色によって構築された、流動を続ける形式、又は時間のねじれ」を再発見、再評価し、20世紀前半に書かれた最も重要な作品と評されている。)

天野―― 似ていると感じるのは、まず冒頭が(《遊戯》と同じく)「H」の音から始まっている。ドビュッシーに敬意を表していると言える。2小節目も装飾音符を抜くと全音音階。3小節目のE♭クラの音型も≪遊戯≫に似ている。最後の方も。《遊戯》の終わりの部分、上演前にディアギレフに言われて加筆したそうだ。

佐藤―― そうですか。《遊戯》とこの作品を見比べるといろいろ共通点が見えてきますね。

天野―― 本当に、譜面通りに音を並べるだけじゃ音楽にならないね。モティーフ操作とか主題の再現やバリエーションが一切ない。これも≪遊戯≫と同じつくり。音の構成は一瞬、全音音階、縦割りビートを嫌ったつくり。小節線は便宜上のものと捉えている。「諸行無常」だね。行く川の流れは絶えずして。旋律と伴奏という考えはない。練習番号[E] から、ビート感が出てくるけど、字余りの拍子をくっつけて面白さを出している。

佐藤―― 前半のテンポの変化やアゴーギク、[L] 以降はもちろん、[E]~[H]、[ I ]~[K] と移り変わっていく変化も重要ですね。アゴーギクで、音だけ聴いたら何拍子がわからない感じ。

渡辺―― 打楽器奏者としても、とてもやりがいがある作品。マーチとは全く違った面白さがあります。

天野―― 前半の打楽器の音色間の対比も面白くできている。

渡辺―― [F] あたりは打楽器だけでやっても景色が見えてきます。

天野―― ボンゴ・コンガのチューニングをどうするかも重要だね。

渡辺―― ティンパニーとは音が当たらない方が良いですね。

天野―― [H] のperc.1 はS.Cym.ですよね?余韻どうするのだろう?パッと見た感じ16分の連符がすごく重要に見える。

渡辺―― スティックや叩く場所、楽器にもよりますね。

天野―― テンポ表記にかなり幅がある。この上限をとるか下限をとるかでもかなり印象が変わる。極端なダイナミクスのつけ方の表記も重要。この人数で合わせるのはかなりの努力が必要。

佐藤―― 譜面を読むのにも時間がかかる、大編成で合わせるためにも、かなりの労力が必要ですが、できるだけ細かく分けて丁寧に練習すれば必ずできるようになるはず。

天野―― モティーフ操作とかはないから、頂点の作り方は他とまた違う工夫が必要。タイトル、なるほどなぁと思う。前後関係ではなく、一瞬の響きが重要。アゴーギクのさじ加減。1番の福田さんが言っている「アゴーギク」の動かし方とも性質が違うね。

佐藤―― 音楽の流れを変化させてほしいところに riten. a tempo が書かれていますね

天野―― そう。拍子感をあいまいにさせたい部分とかね。[A] からは意図的にテンポを変えてある。その直前のpoco riten. はあえて崩したい場所、[K] の前の riten. a tempo の応酬。武満の後期の作品もだけど、こういう揺らぎ感に共感する人も多いのでは。やはり良い作品は、スコアのパッと見の模様も美しい。

渡辺―― 立体的に見えてきますね。

佐藤―― 逆に合奏で立体的に見せるのは難しいかも。指揮者の先生の腕にかかっている。

天野―― これはトレーナーが指導して、直前だけ本番の指揮者が振るとかだとできない曲だね。それだと つまらなくなってしまう。

佐藤―― コンデンススコアも段数が多い!室内楽のスコアみたいですね。

天野―― フルスコアを作ったあとにコンデンスを作ったのでしょうね。これはやっぱり吹奏楽でやらないと面白くない。審査員泣かせの曲になるんじゃない?違う団体がやると全然違う曲に聞こえるのでは?バランスも、たとえば[ I ] の作り方ひとつとってもいろいろある。音色対位法になっているし、セクション対位法にもなっている。どの声部を出すかでかなり面白い表現ができる。

佐藤―― 音色的な部分とテンポ的な部分、打楽器もしっかり書きわけていますね。

渡辺―― すばらしい!

佐藤―― 打楽器は持ち替えとか不自然なところないですよね?

渡辺―― すごくよく考えられています。

天野―― 完璧に音がなくなる「刹那的なところ」が何か所かある。これがまたいい効果がでる。たとえば4小節目の頭とか。大学生とか大人のバンドがひと夏かけてじっくりやると面白いのが作れる。 自由曲で逆にマーチやったりして(笑)
具体的なハーモニーのアナライズをしたって意味ないから、フィギュレーションで追っかけて行かないと。パート練習やったってまったく意味がないから、どうやって練習したらいいか。セクション練習かな?

佐藤―― 同じ動きをスコアから確認して、合奏前に練習することや打楽器と一緒に向い合せで練習したり、合奏の形態を工夫して、セッティングを同じ動きで集めたり、逆にバラバラというか、シャッフルしたり、アンサンブルのクオリティを上げる練習が必要です。

渡辺―― さすが!良い練習方法ですね。

天野―― これは久しぶりに「書きたい曲を書いた」っていう感じの曲だよね。メトロノームをかけて一生懸命やる、なんてできないよね。

佐藤―― 譜面から目を離さないでアゴーギクつけるの、大変ですよね?

天野―― かといって暗譜できるような曲じゃないしね。

佐藤―― アゴーギク、テンポの変化の対応ですね。指揮から感じ取ることに慣れる。それが「本番ならでは」の表現を生むはず。指導者はスコアの研究も含め本番の演奏にいたるまで、しっかりヴィジョンを持つことが必要。

天野―― 慌てずに、じっくりと作品に向き合いたいね。

佐藤―― はい、手強い曲ですが、素晴らしい作品です。先生方ありがとうございました。