尚美ミュージックカレッジ専門学校 管弦打楽器学科
管弦打楽器学科[2年制]
音楽総合アカデミー学科管弦打楽器コース[4年制]

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課題曲のすべて

II.マーチ「エイプリル・リーフ」(近藤 悠介)
<課題曲2>天野正道&大井剛史 両氏による対談

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天野:これは典型的な「課題曲マーチ」ですね(笑)。4つ足のマーチ。この前おっしゃってましたけど、こういうマーチが出てきたのが、1989年くらいからでしたっけ?

大井:1990年ですかね、行進曲「マリーン・シティ」(※1990年度課題曲D、作曲:野村 正憲)ぐらいじゃないかなと思いますね。

天野:日本で4拍子のマーチというと、團 伊玖磨さんの「祝典行進曲」が有名です。あれは、あえて4拍子にしたんですってね。2拍子のマーチだと、まだ軍楽隊っていうイメージが当時ありましたから、それを払拭するために4拍子にしたと本人がおっしゃってますね。

大井:4拍子のマーチ自体は結構昔からあって、第1回の課題曲であった大行進曲「大日本」(作曲:斉藤 丑松)も4拍子ですし。なんだけどほら、そういうものとは...。

天野:ちょっと違うんですよ。

大井:ええ。いわゆる「課題曲マーチ」...30年続いてるって結構凄いですよ。

天野:確かに。

大井:で、あと20年くらいすると、もしかしたら「古いね」なんて言われちゃう時代が来るかもしれません。

天野:過去の「課題曲マーチ」を、イントロはこの曲、第1マーチは別の曲、トリオも別の曲...って繋げても普通の曲に聴こえちゃうんですよね。それぐらい雛形になっちゃってるから...。

大井:でも、演奏する団体が多い。

天野:確かに。

大井:このテンポの、このスタイルの曲が、若い人の心には響くんだろうな、と思います。ちょっとウキウキするテンポ、つまり本来の行進曲よりちょっと速いテンポで、休みの日に上機嫌で街に繰り出す〜みたいな、前向きなものを感じるじゃないですか。どんな曲も。

天野:「トランペット吹きの休日」もそうですよね。そういった流れはあると思いますね。あれはマーチじゃないですけど、そういうテンポ感ってのはあるんでしょう。

大井:はい。

天野:まあただね、過去の課題曲を研究して書いてるのはいいんだけど...課題曲マーチってグロッケンシュピールにトリルが多いんですよね。理由は簡単で、今ほとんどの作曲家はコンピュータの打ち込みで曲を書いてるじゃないですか。コンピュータの再現音ってグロッケンにトリルを書いても濁らないんですよ。本物の楽器でやったら濁るのは当たり前じゃない。上手いプロの打楽器奏者はちゃんと綺麗に響かせますけど、こういう速いパッセージだって、生だと「ぐしゃーっ」となってしまう。でもコンピュータの音源ではそうはならずにクリアに聴こえちゃうんですよね。

大井:そんなやかましくやんなくていいんですよね。

天野:はい、さりげなくやればいい具合に聴こえるんだけど。fという指示を真に受けて思いっきり弾いている人を毎年コンクールで耳にします。グロッケンの濁った音しか聴こえないというか...。

大井:木管楽器の同じことやっているパートに色を添えるつもりでやるのがいいんじゃないかと思います。

天野:まあそれはともかく、雛形通りファンファーレから入って...って形の、典型的な「課題曲マーチ」ではあるんだけど、[A]のテーマ、アルトサクソフォーンがよく鳴る音域で書かれてますね。メロディーラインっていろんなブレンドの仕方があるじゃないですか、クラリネットとアルトサクソフォーンのバランスが。これも各団体で個性出せると思いますね。

大井:作曲者の近藤さんに東京佼成ウインドオーケストラの練習に立ち会っていただいた時...あの..."エロすぎる"と言われました、日に日に演奏がエロくなっちゃってですね(笑)。

天野:大人の演奏だと、それはそうでしょうね(笑)。


天野:[A]からのトロンボーンのバッキングはいい音域で書いてますね。

大井:あと4度くらい高く書いてしまう、っていうのがありがちですね...。

天野:ね。これはちょうどいい音域です。

大井:で、その...伝説の?装飾音ですけど、「力まず滑らかに」...どのくらいのスピードで演奏するのか、どの程度拍の前に出すのか、その意識の仕方でだいぶ変わってくると思いますね。

天野:それでエロさ加減が変わります(笑)。それから、当然こういう♩=138くらいのマーチって、特に中学生とか、練習をずっとしてると、バッキングがマンネリ化しちゃうんですよね。頭打ちにしてテヌートでゆっくりハーモニーを確認した方がいいですよ、ってことは必ず言います。慣れちゃうと、こういうのみんな音程もへったくれもなくなっちゃう。それは練習のときに気を付けた方が良いです。

大井:マーチのフレーズ感、難しいんですけど、正確なリズム・テンポをキープしながらも、やっぱり4小節目の3・4拍目に向かうような感覚がないと辛くなっちゃいますね。

天野:これ、不文律じゃないですか、マーチって。書いてなくても。マーチを知ってる人と知らない人って、そういうところに顕著に表れるんですよね、演奏の内容が。

大井:メロディーラインの扱いが意外に難しくて、大きく4小節のフレーズで取ると、例えば[A]の2小節目の長い音で"張る"というか...次の音に向かってしまうと、結構しんどいかもしれないです。きつい感じに聴こえると言うか...。僕は敢えて2小節+2小節という風に捉えました。ちょっとポップス・テイストというか。4小節フレーズにするとクラシカルになる。

天野:件の装飾の入れ方も、フレーズの取り方によって変わってきますよね。ちなみにフレーズを2小節+2小節で取ると、1つ目のフレーズの終わりが完全に休符が入っているようになってしまうんですよね。ある程度は持続性がないと。

大井:この第1マーチのテーマ、意外と侮れないです。

天野:はい。

大井:彼が普段ポップスやロックのバンドをやっているということも、その表現の参考になるんじゃないかと思いますね。

天野:そうですね、コード進行も、例えば[B]の2小節前でちょっとした3度転調が入るじゃないですか。色が変わるわけだし。まだ最初のうちは1小節で元の調に戻るけど、後半はもっともっと長い間ポップス転調いっぱいするじゃないですか。そういうところもありますからね。


天野:そして[B]からお決まりの如く第1マーチの確保ですけども、対旋律もちゃんと入ってきて。いいですね、ホルンも入っていて。テナーサクソフォーンとユーフォニアムってほら、同じ音域だからってみんな重ねますけど、ホルンやアルトクラリネットがブレンドのつなぎになってくれますよね。

大井:そうですね。

天野:そしてこれも雛形だけど、[B]の5小節目アウフタクトからトランペットがメロディーラインをなぞって、音色的にサウンドに変化を出すって言う。まあよく考えてやってますよね。

大井:[C]みたいな、その第2マーチのテーマの形は典型的なんだけれども、こういうの必ず2・4小節目の付点8分音符が短くなりやすいですね。

天野:あとあの、トロンボーンやユーフォニアム、テューバと、木管低音、コントラバス。それぞれ発音原理が異なるせいで、全然違うニュアンスになっちゃいやすいんですよね。各セクションずつリレーして何回かやってみると、違いが見えますよ。特に付点8分の長さが。


天野:それから[C]のところのバッキングのなんですけど、高音域の木管楽器に第3音がいないんです。普通は下が開離配置、上は密集配置にした方がよく響くじゃないですか。それが逆になっているので、下手にやるとスカスカに聴こえるんじゃないかと思いますね。

大井:どうしたらいいんでしょうね?上が頑張らなきゃいいんでしょうか。

天野:上のDはともかく、Aをほんの少しだけ丸くしてバランスを取るのがいいんじゃないでしょうか。

大井:なるほど。

天野:[C]の4小節目も、根音のFの音が極端に少ないですから、ここもそのまま演奏すると空虚な響きに聴こえますね。バランスを工夫しなきゃですね。

大井:[C]の4小節目、3拍目から4拍目の間、これが凄い難しいです。

天野:この4拍目のアウフタクト、3連符じゃなければやりやすいんですけどね(笑)。

大井:この一瞬でニュアンスを全部変えないといけない。でもテンポは「緩んで聴こえてはいけない」という言い方が正しいのかな。私も厳密には...ちょっとテンポを下げて、その後のcresc.で戻しているんですけど、でも、ニュアンスが変わっているようには聴こえて、テンポが下がっているようには聴こえないようにしないといけない。

天野:あからさまにテンポが落ちてはいけないですからね。

大井:さらに4拍目に入ったときには[E]までの長いフレーズが見えていないといけない。

天野:ここで完璧に色が変わらなきゃいけないわけですよ。シーンがガラッと変わるように。

大井:佼成ウインドで演奏したときも、近藤さんに「(雰囲気を)変えてください」と言われましたから。

天野:はいはいはい。いわゆる映像が、つまみをひねるようにジワジワと変わるのではなくて、スイッチを押してパッと切り替わる感じが必要でしょうからね。

大井:そう!だから、dim.しちゃうと、一番安っぽくなっちゃう。

天野:それは避けた方がいいでしょうね。


天野:さて[D]は、いわゆるポップスの進行になってるわけですけどね。だからここはニュアンスが出た方が良いですよね。ただホルンとトロンボーンが全く同じ音域で書かれていて、実際はホルンがちょっと聴こえにくいかもしれません。トロンボーンはあえてpになってるからいいんだけど、もっと柔らかい音にしないと。

大井:なるほど。

天野:あとは、ホルンの1拍目裏の4分音符にテヌートが書いてあるじゃないですか。これはアクセントとまではいかないけど、ちょっと大きめから入らないと、トロンボーンと音域が同じだから埋もれて聴こえちゃうかなって。コード進行もメロディーラインも綺麗なとこですからね。

大井:なんで高音木管のスラーはこうやって書いてあるんでしょう?2小節と2小節に分かれてる。

天野:ねえ、ちょっと面白いスラーの書き方ですよね。ユーフォニアムとかの対旋律とスラーの切れ目がズレるようになってるわけじゃないですか。それを意識したのかなと、と解釈したんだけど、果たしてどうなのかな。

大井:このズレを強調したら面白いかもしれないです。

天野:まあ、普通はこういうフレージングはまず書かないですよね、あえてこう書かれている、ってところがポイント。

大井:あえて考え方によっては、大きく4小節のかたまりに聴かせるために、なんでしょうか...。

天野:何も考えてなかったかのかも...。

大井:ははは(笑)。でも何も考えてないと、なかなかこのスラーは書かないと思うなあ。なんとなくフレーズが切れないように、(弦楽器の)ボウイングをこういう風に付けた、みたいなことかな...。[C]から[E]までの間は、よくよく練習が必要ってことだ、ここは。

天野:そうですね。


天野:この曲でもう一つ面白いのは、[D]から[E]に入って、poco a poco cresc.して、第1マーチに戻るじゃないですか、ここのね、[E]の4小節間のつなぎ方もよく考えてるなと思ったんですよ。

大井:ふんふん。

天野:いわゆるテーマの「8分音符2つ+8分休符+8分音符タイ」の形が、第1マーチでは下行音型だったのが、リズムは一緒で上行音型にするとかね。

大井:[E]のトランペットは大きく入りすぎるとここで切れちゃうから、[E]の1つ前から[E]が繋がるように演奏するのが良いと思いますね。これも練習が必要かなと。

天野:そうですね。トランペットの皆さんも[D]からメロディー吹いてるつもりで演奏して欲しいですね。前からの流れに乗って入って欲しい。アルトサクソフォーンは[E]の前から演奏してるから繋がるわけですね、メロディーが。それがトランペットも同じように[E]より前のことを考えていないと、トランペットが入るところから別なものになってしまうんです。[E]の2小節間の調性は[D]から続いてるわけですよ。それで[F]の2小節前でまたF-Durのサブドミナントに戻るわけだから、そういう色の変え方を考えると、[E]のトランペットの入りは大事だなと思います。

大井:さらに、2拍目の裏が短くなりすぎないようにすること、その辺りも全部気を付けて上手くいくと、[F]の1小節前の爽快感は結構なものになると思います。

天野:そうですよね。サブドミナント→ドミナントになったところでね、ポップスでいうところのII→Vの進行ですから。それに関連して、面白いなと思ったのが、F-durのコードから違う調へ転調するときに必ずテンション・コードが入っているんですよ。しかしF-durに戻るときは、テンションなしに近い形で戻るんです。[F]の2小節前も、メロディーに第7音がいるだけで、バッキングは三和音だけにしてるんですよ。だから毎回ね、F-durを離れるときはテンション・コード、戻るときはテンションなし、という統一感を作っているのが良いなと思いました。潔い、というか。

大井:なるほど。

天野:F-durに戻るときもテンション・コードにしてしまうと、ポップスっぽくなりすぎてしまうことを考えたのかもしれないですね。戻るときは潔く元の調に戻るぞ、という風に。

大井:ポップス風かと思うと、いきなり課題曲風に戻るように感じるのもそういうことですか。

天野:そういうことなんです。戻ったときにテンションがあればもっとポップステイストなんだけど、そうじゃないから突然課題曲風の世界に(笑)。ここで笑っちゃったのが、[D]から、さっきも言ったように場面が変わるじゃないですか、まあ夢の世界に行ってるんだけど。それで[E]でだんだん目覚めるんだけど、やっぱ突然また現実の世界に戻っちゃうと言うか(笑)。

大井:近藤さんっぽい。

天野:映像感覚がちゃんとしてるなと思ったんですよ、そういうとこが。

大井:なるほど。彼の性格かもしれません。

天野:それで[F]がね、ご多分に漏れずトランペットが出てきますね。個人的に、ここは少しトランペットの音色が目立ってもいいかなと思ったんですよね。今までこのテーマってサクソフォーンとクラリネットを中心に木管楽器が演奏してきたじゃないですか。[B]の途中からトランペットも入ってきてたけども、テーマの最初からトランペットが入ってくるのは[F]が最初だからね。そういう理由もあって、ちょっとトランペットが出ても良いのかなあって。

大井:このトランペット1st、2ndの装飾がね...。品よくやらないと、ジャズのグロウルっぽくなっちゃうんです。

天野:指もちょっと嫌な感じ。

大井:唸っちゃわないように、でも音色的な華やかさはトランペットがいることで変化を付けたいですね。

天野:サクソフォーンとかクラリネットは簡単で、いくらでもタイミングとれるんだけど、こういうところは逆に審査する時は面白いなと思えるところだと思いますね、個性が出るか出ないか。


天野:Trioに入る直前も、4拍目でcresc.かけるのが課題曲マーチ(笑)。

大井:そうですね、僕は演奏する時に気を付けていることで、さらに審査する時にまず見るところは、Trioの一小節前がちゃんと終止しているかどうか。

天野:はいはい、大事なとこです。マーチの肝ですからね。

大井:さらに、終止をした上で、Trio直前のcresc.で新しい扉を開けられているかどうか。結構多いのが、例えばこの曲だと[F]の2小節前からTrioの頭までが一つのフレーズとして演奏されてしまうパターン。

天野:繋がっちゃうパターンね。終止感がない。

大井:それから...ちょっと戻っちゃうんですけど、イントロと第1マーチが同じテンポがどうか。

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天野:ここのテンポが違う演奏、コンクールでは多いですよねえ。

大井:難しいですからね。我々だって難しいんですから。結構言われますもん、クラリネットが前に行ってるだとか後ろに行ってるだとか。

天野:特に最近、4拍子のマーチだと、いわゆるビート感がないというか、拍子感がないとこ多いじゃないですか。"けん-けん-ぱ"じゃないですけど、"けん-けん-けん-けん..."が続いて1拍子のマーチになっちゃうとこ多いんですよ。

大井:それで、この曲もそうだけど、第1マーチがアウフタクトから始まっていて、さらにその直前にシンコペーションがあると結構難しいんです。

天野:まあポップステイストではあるんですけどねえ。例えば極端な話、このままのオーケストレーションにドラムセット入っててね、エレキベースでベースラインやってると凄く楽なんですよ。

大井:なるほど(笑)。

天野:第1マーチの直前みたいなところはドラムがFill-In入れてくれるから(笑)。でもその感覚で練習してると、テンポはズレないで済むかもしれない。

大井:なるほどね。練習でドラムセット入れてみるか!

天野:意外とミュージカルの音楽みたいな感じになります。まずはそれで練習して、あとで楽譜通りドラム無しにすると、Fill-Inのイメージがあるからか、終止感が出るんです。大人だと効果ないかもしれないけど、中学生とかだと意外に有効な練習方法だと思います。とにかくここのTrioに入る前の終止感、大事です。

大井:音程がね、また上に上に行くんですよ。

天野:あと、Trioの1小節前でリズムを刻むのがトロンボーンとスネアドラムだけじゃないですか。マーチの常套手段の終わり方なんだけど、他の楽器がロングトーンになってるから、ますますこれを意識しないと終止感が出ないんですよ。Trioの2小節前からのII→V→Iの終止感がどこまで出るかが大切ですね。


天野:Trioにleggieroって書いてますよね。楽語の日本語訳、いわゆる音楽辞典でもこれはちょっとどうかな?っていうの多いじゃないですか。たとえばAllegroを「速く」って訳してあるとか。leggieroも「軽く」って訳されてる場合があるんです。だから、いわゆる鍵盤楽器におけるノンレガート奏法のleggieroではなくて、日本語そのまま"軽く"ってイメージだったのかなあと、解釈してるんですけども。

大井:楽語、こちらも作曲者に合わせて解釈しなきゃ、ってことですね。ここは...歌い込むような感じではなくて、少しポップステイストのお洒落な雰囲気?みたいに解釈することにしましょう。あとはアルトサクソフォーンの音域が少し高めですね。

天野:やっぱり中学生とかだと、サイドキーで出す上のレ(実音F)は、音色も音程もコントロールが難しいかもしれませんね。


天野:でもTrioはコード進行もメロディーも綺麗でね。このメロディーの作り方で面白いなあと思ったのは、アウフタクトから始まって、[G]の1、3、5、7小節目が、全部メロディーが倚音じゃないですか。本位音が2拍目の裏の音で。倚音ってやっぱりちょっと思い入れが入るから、毎回使うとしつこくなるんだけど。音楽的な流れを考えると、[G]の5小節目、ここが一番やっぱり少し思い入れが入るのかなって。

大井:この4回の倚音は、違うニュアンスにした方がいいですね。

天野:そうですね、毎回同じようにやっちゃったらしつこいし、かと言って倚音を無視しても全然つまらないし。それでバックのハーモニーも[G]の5、6小節目で3rdホルンがC→H→Bって下がってくる、さりげなく美しい進行があるじゃないですか。

大井:これは聴こえにくいですね。

天野:内声にいるから、何か別の楽器でなぞるなり補助があったら良かったなあって。でも綺麗な対旋律ですね。

大井:でも3rdホルンの人が出そうなんてあんまり思っても...

天野:うん、頑張ったらダメです。あくまでハーモニーのなかで上手くバランスを取るつもりで。あとこの辺りでちょっと面白いのは、51小節目の3拍目で、Dm7(b5)の和音に変わるじゃないですか。2拍間だけだけど凄く重要で、これが短調から借用してきた和音ということを演奏する方も感じ取ってくれればいいかなあと思いますね。

大井:そうですね。ただ、これを味わえば味わうほど...なんて言ったらいいのかな...53、54小節目には別のものを期待しちゃう...。

天野:そうなんです。53小節目でトロンボーンが入ってきて、次へ行くハーモニーの進行が、急に"課題曲マーチ"に戻っちゃう。もう2小節、あっちの色だったらもっと良かったと思うんだけど。CmからBbにいっちゃうんだもんね。

大井:ただ、これをおかしいと思うと、おかしい演奏になるんです。

天野:そうなんですよ。

大井:僕は天野先生よりも感覚的に捉えているから、フレーズを長くとって、51、52、53、54小節目は、暗→暗→暗→明という風にとると、53→54小節目の進行が少し爽快に感じられるのではないかと。

天野:そういう風にしないことには救われなくなっちゃうから。

大井:ここは工夫の仕方によって、自然にもなるし...。

天野:反対に、作為的にもなるし。


天野:続いて[H]からは、またTrioのテーマの発展形になる。

大井:ここはホルンが低いから、しっかり出ないと。せっかくテーマを追いかけてるんだけどな。

天野:そして、ここからトランペットは1stだけメロディーをなぞっていて...。ちょっとアルトサクソフォーンの音域が高いぶん難しいけれど、F-Durの明るさは出てくる形になるでしょうね。対旋律は音域がちょっと低いかな。

大井:スキルが求められる曲ですね。トランペットの7度跳躍とか結構きれいに聴かせるの難しいと思います。

天野:中学生とか、聴いた感じ楽しいからって選んで、練習し始めるとこういうところで苦労すると思いますよ。そういう意味では審査しやすいかもしれない。

大井:演奏していると、[I]の前の70小節目くらいからハーモニーが変わっていくあたりで、少しテンションが高くなってくると思うんですけど、そのままいっちゃうと[I]の前で終止しなくなっちゃいますよね。

天野:[I]になし崩し的に進んじゃうパターンになりますからね。ここもTrioの直前と同じようにトロンボーンとスネアドラムにリズムがあるので、一応終止のことは考えられてるんですよね。せっかくそういう風に書いてくれてるんだから、終止感をちゃんと持ったうえで、[I]に入るようにしないとね。

大井:[I]の3小節前の主旋律「B→A→G→A→B」でちゃんと収められるかどうかにかかってますね。

天野:ここも[I]の4小節前から、サブドミナント→ドミナント→トニックってちゃんとした普通の進行で、終止感が出るように書いてあるんです。それが、ちょっと油断すると流れていっちゃう。それから[I]の1小節前、バッキングにはスタッカートが書いてあるじゃないですか。でも音を伸ばしてる他の楽器はスタッカートが書いてないから長くした方がいいっていう人がいました...。

大井:そうですか?

天野:いや、私はそうじゃないと思うんですけど、「譜面にそう書いてあるから、長さを変えないといけないんです」って。うーん、そういう誤解を招いちゃうと困るなあって。マーチっていうのは普通そういう解釈にはならないわけでしょ。

大井:はい...。

天野:我々、ちょっと考えもつかなかったことだったんですよ。「楽譜を忠実に読む」ということを履き違えられているのかなって。マーチの形式、マーチの音楽を解っていれば絶対そういう解釈はしないのに。

大井:まあ音符の長さは多義的ですからね。

天野:[I]のブリッジはオープニングのパターンを踏襲してますね。ここで面白いのは、ベースラインが2度ずつ下がってくじゃないですか。オープニングも下がってはいるんだけど、こっちの方がフレーズがあっていい感じですよね。ただここのファンファーレ、[I]から2小節間はトランペットがいるからいいんだけど、次の3、4小節目がクラリネットとホルンになるんですよね。これも油断すると抜けてこなくなると言うか。

大井:やっぱり聴こえないですよね。それで、いろんなアプローチがあると思うんですけど...まあ普通はトランペットのようには聴こえないから「ホルン頑張れ!」って話になると思うんですね。それで音色がBrassyになりすぎちゃって...いわゆる無理吹きって言うんですかね。逆に、少し音色感が変わるんだから、ハーモニーも変わるし。少し自然の作用に任せる程度にしておいて、結果としてはdim.の方に音楽が近づいていく方が自然かもしれないです。

天野:[I]の4小節間を吹き続ける人も、少し全体の響きを考えてバランスを取れるとよいですね。


天野:それから[J]の最初1小節半ね、打楽器のリズムが無くなるじゃないですか。だから油断すること緩んじゃいますね。テンポが緩むというよりも緊張感がなくなっちゃうというか。mpだけどある程度の緊張感があった方が。

大井:[J]の3小節目みたいなところで、自然な響きを意識した方がバランスでいくか、それともトロンボーンとホルンのグリッサンドをエグく出すことによって、なんというか奇怪さを出すか...(笑)。ご指導される先生の性格が出ると思います。

天野:この[K]の2小節前をどういう構成にするかで、rit.の感じも変わってくるかもしれませんしね。

大井:[K]の2小節前3、4拍目が遅くしやすいんですが、rit.が書いてるのは1小節前ですよね。絶対にそうしちゃいけないということではないんですが、自分がどう振ってるかを分かっていないといけないですね。

天野:[K]からのグランド・マーチなんですけど、対旋律にしかmarcatoが書いてないですけど、マーチの不文律で当然メロディーもmarcatoになるわけじゃないですか。

大井:はい。

天野:これ、メロディーにmarcatoが書いてないからって油断すると、全部べた吹きというか、ダーダー吹きになっちゃうとこなんですよね。

大井:そうですね、ただ凄いstacc.でもおかしい。

天野:そうですね。ちょうどいい塩梅が難しいですね。だからここもいろんなバンドの個性が出てくるかなと思いますね。

大井:一度[H]のフレージングを写してpで練習してみるといいかもしれませんね。特にトランペットの2nd、3rdはここで初めてこのメロディー吹くので、ニュアンスが他と違っちゃわないように気を付けたいですね。

天野:あとは、これ以前にも出てきたんですけど、2拍3連があるじゃないですか。2拍3連、我々作曲家って思い入れがあるときに書くんですよね。[K]の部分はスラーがないので、この2拍3連に表情を付けやすいんですが、[H]に出てきたときはスラーの中なのでニュアンスが付けにくいんですよ。一つの方法としては、スラーの中であっても、ソフトタンギングをしてみるのも良いと思いますね。そうすると「2拍3連感」というのかな、それが出せると思います。

大井:いろんなやり方ができると思いますね。

天野:[L]のところは、前にもありましたよね、このパターンね。いい繋ぎになりますね。このメロディーも切迫感がよく出て、よく考えて書いてるなと思いますね。あとは[M]の1小節前、ここも2拍3連があるんだけど、これかなり強調しないと聴こえてこないんですよね。

大井:聴こえないでしょうね。ただ、全部の要素がダイナミクスをあからさまに変えてまで聴こえさせる必要があるのかどうか...(笑)。まあいろんなやり方があると思うんですけど。ただ自然に鳴るように任せていいポイントを取るとなると、バンドがベーシックに上手くないとダメですね。

天野:最後、グロッケンがずっとトリルですね。上手くバランスとって逃げないと。あと[M]の1小節前のピッコロとフルートのF-Gトリル、もちろん替え指はあるけど、イヤなとこですからね。中学生とかだと替え指を知らなかったりして、真面目に通常の運指で一生懸命吹いてたりするんですよね。とはいえ替え指もちょっと音程が変わっちゃったりするから使う時は気を付けないといけないんですけど。

大井:なるほど。

天野:まあでも、演奏する団体多いと思いますよ。今までの流れの「課題曲マーチ」ってことで。

大井:毎年こういう課題曲マーチについて思うんですけど、たいていpがないんですね。それで、pがない曲はpで演奏しなくていいのかって。

天野:それは違いますよね。

大井:トロンボーンに一瞬pがあるんですけど、バランス的に書かれているので、tuttiでのpが無いってことを見越して...mpが一番弱いダイナミクスということを踏まえて、弱く柔らかく作りこまないといけないですね。もちろんすべてのmpが同じではないと思うけど。そこは工夫のしようですね。

天野:mpってあくまでpの仲間ですからね。そこの勘違いって多いじゃないですか。本来mpmfには開きがあるはずなんです。

大井:吹奏楽の曲はmpが多いですよね。微妙なダイナミクス...。

天野:思い切ってpって書けばいいのにね(笑)。でも、一応それにも理由があるみたいで、よくいろんなバンドディレクターの方が言うには、pって書いちゃうと子供たちが萎縮して息が入んないから、って。ああなるほどな、と思ったんです。pであっても(楽器をきちんと響かせるには)ある程度の息のスピードが必要じゃないですか。なんだけど、pを見ると必要以上に委縮しちゃうから、mpって書くようになったんだ、ってことを言われて。

大井:作曲家の立場からすると、自分の曲が「鳴らない」と思われるのが嫌だ、みたいなのもあるんでしょうか。

天野:だって今、吹奏楽でppを書くと怒られるんですよ...(笑)。

【天野 正道】
国立音楽大学作曲科首席卒業、武岡賞受賞。同大学院作曲専攻創作科首席修了。在学中よりクラシック、現代音楽はもとよりジャズ、ロック、民族音楽から歌謡曲まで幅広い創作活動を行う。卒業後オーストラリアに赴き日本人で初めてC.M.I.(Computer Music Instruments)をマスターし、日本におけるコンピュータミュージックの第一人者の一人となる。多くのアーティストのアルバム、映画、アニメ、ビデオの音楽、数多くのCM、TVの音楽制作を行っている。2000年、第23回日本アカデミー賞音楽部門優秀賞受賞。2001年、第24回日本アカデミー賞音楽部門優秀賞受賞。2000年、第10回日本吹奏楽学会アカデミー賞受賞(作・編曲部門)。尚美ミュージックカレッジ専門学校特別講師。

【大井 剛史】
東京藝術大学指揮科を卒業、同大学院指揮専攻修了。 東京佼成ウインドオーケストラ正指揮者。国内の主要なオーケストラを指揮し、いずれも高い評価 を得ている。現代作品、オペラ、バレエなど幅広い分野で活動中。2008年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクール第2位。東京藝術大学音楽学部器楽科非常勤講師(吹奏楽)。尚美ミュージックカレッジ専門学校客員教授。

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