尚美ミュージックカレッジ専門学校 管弦打楽器学科
管弦打楽器学科[2年制]
音楽総合アカデミー学科管弦打楽器コース[4年制]

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課題曲のすべて

[特別編]
林 大地、福島 弘和、大井 剛史 各氏による座談会

作曲家と指揮者が語る2019年度吹奏楽コンクール課題曲

『「あんたがたどこさ」の主題による幻想曲』が第29回朝日作曲賞を受賞、2019年度吹奏楽コンクール課題曲に採用された、尚美ミュージックカレッジ専門学校出身の林 大地さん。
そして吹奏楽連盟からの委嘱で『行進曲「春」』を作曲した、同校で講師を務める福島 弘和さん。
東京佼成ウインドオーケストラ正指揮者で同校の客員教授も務める大井 剛史さんが、ふたりの作曲家に話を聞いた。

IMG_8860.jpg大井:福島さんの《行進曲「春」》、吹奏楽連盟から委嘱を受けて作曲されたということですが、以前に公募で2回、課題曲に採用されていますよね。

福島:はい、1998年に選んでいただいたのが最初です。

大井:《稲穂の波》ですね。そのあとは...

福島:2000年に《道祖神の詩》で朝日作曲賞を受賞しました。

大井:課題曲をきっかけに吹奏楽の曲をたくさん書かれるようになって、今回は連盟からの委嘱作品。作曲賞に応募するのと委嘱を受けて作曲するのでは考え方やアプローチが異なると思いますがいかがですか?もちろんこの十数年の中で作曲に対する意識が変わった、みたいな部分もあるかと思いますが。

福島:曲を作るということ自体はそんなに変わらないのですが、「楽器を始めて2年目くらいでも吹ける」という要件が委嘱内容にあったので、その辺りは特に意識しました。本当は「行進曲以外」で、とお話をいただいたのですが、こちらから提案して行進曲ということに。「課題曲マーチは4拍子のものしかない」なんて言われていますし、一方でやや特殊というか奇をてらったような作品も多かったので、自分が経験した範囲の中でオーソドックスなマーチを書けたらいいなと思って。ハードルは逆に高かったんですけれどね。

IMG_8821.jpg大井:公募で曲を出すときって審査をクリアしなきゃいけないじゃないですか。そのときに特徴を出して目に留めてもらおうとした結果、おっしゃるとおり奇をてらったような曲になってしまうのかもしれません。逆に委嘱だと心置きなくオーソドックスに書けた...?

福島:そうですね、それはありますね。

大井:《稲穂の波》を応募したときのことって何か覚えていますか?

福島:はい、学生の時に2回応募して、あの頃はまだ...確か3次審査くらいまであったのかな、今もそうでしたっけ?最初にコンデンススコアの審査、次にフルスコア審査があって、最後に試奏審査。学生の頃はフルスコアの審査までいくのがやっとで、3回目でようやく《稲穂の波》が、という感じです。採用されたときは嬉しかったですね。

大井:大学では確かオーボエを学ばれていたんですよね。

福島:そうです、オーボエ科でした。最初は演奏家になりたかったというか、将来はオケとかに入って、それでおじいさんになって退職してから作曲家になるのもいいな、なんて思っていたんです。でも《稲穂の波》が採用されて、ショートカットしました(笑)。

大井:なるほど(笑)。さて、林さんは尚美ミュージックカレッジ専門学校のご出身ですよね。学科はどちらだったのですか?

IMG_8864.jpg林:管弦打楽器学科で打楽器を、第二専攻(副科)で作曲を学んでいました。

大井:その副科の作曲ではどんなことを学ばれたのでしょう?

林:和声を中心に、自分が調性のない音楽を中心に書いていたので、メシアンの「移調の限られた旋法」とか、そういうものを学んでいました。

大井:レッスンもあった?

林:はい、先生とマンツーマンで和声や作曲の作法、書き方の勉強とかを混ぜつつ、ピアノを使って、という感じでした。

大井:作曲を勉強し始めたのは、尚美に来てからですか?

林:そうですね、高校を卒業してすぐ尚美に入って、それから。

大井:で、打楽器で吹奏楽にも乗ってたのかな?

hayashi.jpg林:アカデミーバンド(SHOBI ウインドシンフォニー)に乗っていました。

大井:ちなみに朝日作曲賞には何回応募されましたか?

林:これまで6回応募しました。最終審査まで残ったのは今回が3回目で、ようやく...!

大井:それはそれは...おめでとうございます。ところで、どうして打楽器を学びながらも作曲家になろうと思ったのでしょうか。

林:実は中高生の時はバンドディレクターになるのが夢で、それで尚美の吹奏楽・マーチングコースに入学したんです。でも勉強していく中で、やっぱりバンドディレクターは自分に向いてないんじゃないかと思うようになって(苦笑)。それから半ば趣味でやっていた作曲を勉強してみよう、あと楽器もしっかり学びたいなと思い立って、2年次から管弦打楽器コースに転向して、第二専攻の作曲も始めました。

大井:なるほど、フレキシブルにできたわけですね。バンドディレクターになりたかった、ということは中高生に演奏されることも念頭に置いて作曲されているのでしょうか。

林:課題曲公募の要項に「親しみやすい旋律」っていう要件があるんです。でも自分は調性のない音楽しか作曲したことがなかったので、勉強のために課題曲を書いてみようと思って。

大井:それは今まで落選した曲も含めて、ですか?

林:はい、自分は調性のある音楽も書けるのか、という挑戦ですね。

IMG_8874.jpg大井:福島さんもそういうことってありますか?自分の一番得意としている雰囲気や手法から離れて、敢えて違うスタイルで書いてみる、自分のテリトリーを増やすというか、可能性を広げる...みたいな。

福島:そうですね、やっぱりいろんな音楽に触れるとそれに刺激されて、こういう曲を書きたいな、というのはだんだん増えていきますね。

大井:福島さんの作品も変化してきていますよね。作品のタイトルだけみても、だんだん抽象的な...。

福島:確かに、だんだん具体的でないものに...(笑)。

大井:林さんの《「あんたがたどこさ」の主題による幻想曲》ですが、民謡をテーマにした課題曲は過去にも《東北地方の民謡によるコラージュ》や《「斎太郎節」の主題による幻想》などいくつかありましたが、わらべ歌をテーマにしたものというと近年あまりなかったような...《ポップス変奏曲「かぞえうた」》くらいか...。どうして今回「あんたがたどこさ」を題材に選ばれたのでしょう?

林:やっぱり誰でも知っているものを題材にしたかったんです。あと「あんたがどこさ」は熊本が舞台ですが、異説では埼玉県の川越が発祥の地とされているんですよ。自分が所属している楽団が川越を中心に活動しているので、縁があるのかなと思ったのも理由ですね。

大井:じゃあ熊本県の人も埼玉県の人もみんなこの曲を選んで欲しい、ということですね(笑)。

林:はい(笑)、演奏しやすい楽譜を心がけて作りましたので、なるべく多くの人に演奏してもらいたいですね。

大井:作曲賞に挑戦する人って、まずは自分の曲が認められたいという願望があって応募するのかなって思うのですが、でも作品自体が「素晴らしい」と言われることと、コンクールで課題曲として「演奏しよう」と思ってもらえることって必ずしも一致しませんよね。だから「多くの人に演奏してもらいたい」と考えて作曲されたのはとても素敵だと思うし、それが見事今回の受賞に繋がったのかもしれませんね。福島さんも《稲穂の波》の頃を思い返してみていかがですか?

IMG_8828.jpg福島:今思うとあんまり人の評価とかは気にせず好きに書いただけだったような気がします。当時はまだ若かったので(笑)、いじわるってわけじゃないですけれど、難しいのは承知の上で書きたいように書いていました。

大井:福島さんの曲はどれもすごくきれいに響くというイメージがあるのですが、林さんから見て、福島さんの曲ってどんな印象がありますか?本人の前では言いづらいかもしれませんが...。

林:《ラッキードラゴン ~第五福竜丸の記憶》を演奏したことがあるのですが、結構独特な和音を使っていてそれがすごく綺麗なんですけれど、キャッチーなメロディーもあるし、見せ場もあって、現代音楽風なところもあり...それでいて最後の山場に感動的な部分を持ってくるという展開も好きです。

大井:ちゃんと一筋のストーリーがあるんですよね。世の中には瞬間芸の連続みたいな曲も少なくはないから...。一貫するものがあると、奏者の集中力や音楽を表現しようとする気持ちもずっと続いていく。縦の響きの美しさだけじゃなくて、プレイヤーの気持ちが音に乗り移ってきた結果としてバンドがよく響くんだな、という印象です。今回の《行進曲「春」》は一体どんな作品なんでしょうか。マーチというからには第一マーチ、第二マーチ、トリオと旋律が3つあるわけですよね?

福島:はい、トリオは民謡とまではいかないんですけど、少しほっこりした感じのペンタトニック風な旋律が出てきます。伴奏に第一マーチの断片が出てきたりとか冒頭のモティーフがいろんな部分でまた出てきたりという仕掛けもあるので、そういうのを発見しながら楽しんでもらえるといいですね。

IMG_8856.jpg大井:そういうところを「もしかして、こことここは同じかな...?」って見つけてもらえると嬉しいですよね。ちなみに題名は曲が完成してから決められたのですか?

福島:だんだん曲ができてきて、曲名をどうしようって思っていた時に、ちょうど新聞の1面コラムでカレル・チャペックというチェコの作家の小説「園芸家12ヵ月」が紹介されているのを読んだんです。その中に「私が作曲家だったら"芽"の行進曲を書いた」という一節があって、これはいいなと。そのまま「芽」だと日本語で聞いたとき響きがあんまりよくないので「春」としました。

大井:「芽」でも面白かったですね、歴代課題曲の中で漢字一文字の題名の曲ってないんじゃないかな...《嗚呼!》は漢字2文字にビックリマークでしょう?だから「芽」だったら史上最強だったかもしれない、漢字1文字で読み方も"め"ですよ、これ以上短いのはない(笑)。でも「春」も短く印象的なタイトルですね。ところで福島さんは林さんのことを学生の頃から知っていたんですか?

福島:いえ、実は全然...。

林:福島先生の授業は受けていなかったので。

fukushima.jpg福島:私が尚美で教え始めた年に林くんは確か2年生だったのかな?担当している「専攻レパートリー研究」は1年次の授業でした。

大井:なるほど。私は尚美では吹奏楽の授業だけ担当してるのでカリキュラム全体のことはあまり詳しくないのですが、吹奏楽の分野で活躍されている先生方や卒業生がすごくたくさんいる学校ですよね。私も先生になって4年目ですけれども、実にいろんなところで尚美関係の方にお会いします。そんな中で林さんが出てきたことも楽しみですね。これからどんな曲を書いていきたいですか?

林:朝日作曲賞に挑戦するのは結果に関わらず今回で最後にしようと思っていたんです。次からは全日本吹奏楽連盟作曲コンクール、課題曲Vの枠のほうに挑戦したいな、と思っていた矢先に賞をいただけたので、うまく区切りがついたかな、と。なので次は連盟作曲コンクールにも挑戦しつつ、自分の得意な方向性の曲をどんどん書いていきたいなと思っています。

大井:楽しみですね、完成したらぜひスコアを見せてください(笑)。それでは最後にお二人から演奏する方々へメッセージをお願いします。

林:規程の範囲で自由に演奏してもらえたら嬉しいです。中間部などアゴーギクを自由につけれるところも多いですから自由に歌っていただいていいですし、各楽器にソロが何箇所かあるので、それも自由に表現していただければいいな、と。一応テンポも指定がありますがあくまで目安として、あっさり演奏してもいいですし、たっぷり歌って欲しいというのもありますし、あまり楽譜にとらわれず自由に演奏してもらえたらと思います。

大井:なるほど。福島さんは?

IMG_8834.jpg福島:コンクールの審査に行くと、それぞれのバンドの日頃の練習の成果っていうんですかね...音がよくまとまっていたりとか、メンバーの気持ちがひとつになっていたりとか、そういうのを聴かせていただきます。毎日練習するからこそ成し得たもので、決して付け焼き刃ではない魅力を感じるんです。曲も、自分の「枕」のように何日も練って練って付き合ってもらえたらいいな、と思います。

大井:コンクール課題曲は長期間取り組むことになるので、ものすごい回数を練習するし、聴いたりもしますよね。飽きられないような曲を書くのはとても大変なことだと思いますが、たくさんの愛情が注がれている曲なので、是非そんなことも感じながら演奏していただきたいですね。

【大井 剛史】
東京藝術大学指揮科を卒業、同大学院指揮専攻修了。 東京佼成ウインドオーケストラ正指揮者。国内の主要なオーケストラを指揮し、いずれも高 い評価を得ている。現代作品、オペラ、バレエなど幅広い分野で活動中。2008年アントニ オ・ペドロッティ国際指揮者コンクール第2位。東京藝術大学音楽学部器楽科非常勤講師(吹奏楽)。尚美ミュージックカレッジ専門学校客員教授。

【福島 弘和】
東京音楽大学卒業、同大学研究科修了。作曲を有馬礼子氏に師事する。現在、オーケストラ、吹奏楽曲を中心に作編曲活動をする。1997年「稲穂の波」で朝日作曲賞入選、1999年「道祖神の詩」で朝日作曲賞を受賞する。2003年、2007年、2012年、2013年、2015年下谷奨励賞受賞。第20回日本管打・吹奏楽アカデミー賞作・編曲部門受賞。2001年度国民文化祭や2008年、2017年全国高校文化祭の吹奏楽創作曲を担当。21世紀の吹奏楽"響宴"会員。尚美ミュージックカレッジ専門学校講師。

【林 大地】
1993年千葉県匝瑳市生まれ。尚美ミュージックカレッジ専門学校管弦打楽器学科(打楽器専攻)、副科(作曲)卒業。吹奏楽を佐藤正人、打楽器を日比一宏、和声を吉田真梨の各氏に師事。中学校から現在に至るまで吹奏楽で打楽器を続ける。川越奏和奏友会吹奏楽団所属。第29回(2019)朝日作曲賞受賞。第22回(2019) 21世紀の吹奏楽"響宴"入選。

(2019年2月8日掲載)

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