楽器別ワンポイントアドバイス – ファゴット編

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2026.09.25

こんにちは、尚美ミュージックカレッジ専門学校で非常勤講師を務めます東京フィルハーモニー交響楽団ファゴット奏者の森 純一です。

今回ファゴットのワンポイントレッスンとして楽器の音を出す上で気をつけるべきこと、心がけたいことなどをまとめることになりました。

皆さんがファゴットに出会い始めたきっかけはなんだったでしょうか?恐らくほとんどが吹奏楽部に入って初めて出会ったのではないでしょうか。自分も高校1年生の時に楽器初心者として吹奏楽部でファゴットに出会いました。

近年少子化で部員減少とともにまずファゴットが人数から削られがちなので大変残念なのですが、ファゴットを演奏する身としてはある意味希少性という価値観も1つのプラスのモチベーションになっていたら幸いかな、と考えています。

さて、吹奏楽の合奏やセクション練習の中でファゴットを吹いていると以下のように指導されることがあります。

「ファゴット音が小さい!トロンボーンやバリトンサックスに負けないようによく響かせて!」

よくわかります。音量に限界があるのは悩みの一つですね。
このように指示されるととにかく音を大きくしようと力任せでバーッと鳴らそうとしてしまうことがあります。自分の耳に大きく聴こえるように吹こうと思うと、手っ取り早く音を開いて汚い音にしてしまう癖をつけてしまう人がファゴットには比較的多いような気がします。実はその音、開いて散漫なために誰とも音色がブレンドしない上に遠くでは聞こえにくいエネルギーの無い音になっています。

フォルテ、フォルテッシモでは勢いでなんとかコントロールできるが、そこからディミヌエンドしたりピアニッシモで繊細に吹くことは非常に困難を強いられてしまうでしょう。

フォルテは「小さい!聞こえない!」と言われ、ピアニッシモでは「でかい!音程が悪い!」と言われ。一体どうしたら良いのか?

自分がレッスンで指導する時は、「音が小さい!と言われたらハイッと元気よく返事して、音を大きくするのではなく、より美しくまとまりのある良い音色になるように意識を高めましょう。」と伝えています。
音色が美しいと自分や近くの人にはさほど大きな音のようには聞こえないのですが、実は芯のあるまとまった響きなので遠くではよく聴こえ、バンド全体の中で響き豊かなサウンドとして存在感が出てくるのです。

それでは、以下にどうしたらこの「美しくまとまりのある良い響き」を出せるようになるのか、自分自身の試行錯誤の中から見つけたことをまとめていこうと思います。

姿勢

良い姿勢になろうと背筋を伸ばすと、やってみると分かると思いますが喉や肩周り、胸などに力が入ってしまいます。このまま吹くと力んだ感じになってしまいます。

イメージして欲しいのですが、自分の頭を水面に浮かぶボールだと想像します。海水浴場に浮かんでいるオレンジ色のボールのように。
体は浮かんだボールから下に首で繋がって水中でゆらゆらしていると想像します。
そして、頭の位置は変わらないようにゆっくり鼻から息を吐いていきます。
(首や喉、舌、肩、胸の力が抜けるように。ただし頭は水面に浮かんでいるので沈まない。高さをキープ。)
そうすると腕や肩が浮かんでいるような感じになります。

その時、お腹のおへそより下のあたりにじんわりと勝手に力がかかっている部分を感じないでしょうか。実はこれがよく言われる「お腹の支え」というものではないかと自分は考えます。
体の表面は脱力しているが、頭の位置をキープするために体の深いところにあるいわゆるインナーマッスルが勝手に働いている状態です。
自分でお腹に力を入れようとすると腹筋運動で鍛えるような表面の筋肉に力が入ってしまいますので、上記のプロセスにより「結果的に下腹あたりに力が入っている感じがする」という状態になることが非常に重要です。

アンブッシュア

日本語の「も」の口の形をしてみてください。唇の端が内側に寄っているのが分かります。そして厚みの増えた上下の唇でリードを咥え、歯が直接リードに当たらないように少し唇を巻きこむようにしましょう。
その時もし喉や下顎、舌に力が入ってしまうようなら顎の開け方を変えてみましよう。口先に近い部分で口を開けるのではなく、こめかみ辺りから顎が開く感じにすると余計な部分に力が入らないでできると思います。もしかしたら「も」と「む」の間くらいの発音の口になるかもしれませんがそれで構いません。

リードを先端からみるとリードの開き方が菱形のように見えると思います。その4つの平らな面をそれぞれ右斜め上、左斜め上、右斜め下、左斜め下の4方向から唇で包み込むように意識するとバランスの良い適度なホールドができると思います。

舌の位置・息のスピードと圧力の関係

「顎を大きく開きましょう」と言われてやってみると、多くの人は下顎に向けて舌を押し下げて口の中に大きな空間を作ると思います。この状態では演奏に適した空気の流れが作れません。空気の通り道が太すぎるのです。

海に近い河口付近の川はとても川幅が広くゆったり流れているように見えます。これが口の中だったとしたら空間が広すぎて息をたくさん使っても息のスピードは遅く圧力も足りません。高い音域ではぶら下がった音になり音色も美しくなくなります。

逆に川の上流にある山の中の谷は細くて水の流れが早いですよね。顎を大きく開いていても舌は常に上顎付近にプカプカ浮かんで寄り添い、狭くて細い空気の通り道を作っている状態が楽器を吹くのに適した口の中の形であると考えます。

細い空気の通り道になっているとppのように少ない空気の量でもスピードと圧力がキープできるのでスムースな発音と音の持続ができるようになります。
舌は特に付け根の部分は力を入れると位置が下がり、力が抜けると自然に上の方にプカプカ浮かびます。舌の力の抜き方は姿勢やアンブッシュアの項を参考にしてください。

音の高さや音量(息の量)によって空気の通り道の最適な細さは変わるのですが、舌が脱力してプカプカと浮かびながらも空気の流れの圧力に呼応してしなやかに自動的に最適な位置にスッスッと変わってくれるのが理想だなあといつも思っています。

喉の状態

普段生活している時の喉の状態は楽器を吹くのに適していないのですが、自分がもっとも適していると感じられるのは大あくびの最高潮の時の状態です。わざとあくびを真似してみて最高潮のところでストップ。なかなかそこでストップするのは大変だと思いますが、その時ただ口が開くだけでなく、喉、肩、胸、背中など身体全体が大きく動き位置関係も変わっていると思います。
この時の喉の状態を慎重にキープしたまま息を吸ったり吐いたりを繰り返してみましょう。実はこれが演奏中の良い体の状態に1番近いと思います。このままの喉をキープしたまま楽器を吹いてみると色々なコントロールがしやすくなると感じられるはずです。

あくびの方法ではイメージしづらかったら、唾を大袈裟にゴックンと飲み込む方法もあります。この時も喉が押し付けられて苦しくならないよう肩や胸や背中などが大きく動いてくれるのが分かります。
ゴックンの「ン」のところでストップ。これもキープするのはなかなか大変。この時の喉の状態もとても良さそうです。どちらかイメージのしやすい方法を試してみてください。

「顎を引いて」と言われることがあると思います。上手な人は顎を引いて演奏しているように見えます。実は上に書いたような良い喉の状態になって初めて顎を引くことが可能になるのです。普段の喉のまま顎を引こうとすると喉が潰れ苦しくて息ができなくなります。喉の状態は顎を引くための前提条件として必須です。

姿勢、アンブッシュア、喉の状態は相互に繋がっている関係ですので、どのアプローチからイメージするのがベストかその日の体調によって変わってくるかもしれません。どれか一つに固定しすぎないように柔軟に対応していきましょう。

楽器の構え

今まで書いた姿勢、アンブッシュアや喉の状態が楽器を吹くのに最適になった体の状態をキープした上で、左手と体の2点だけで楽器を支えてリードが口の位置に来るようにストラップの長さや位置、ボーカルの角度を調整しましょう。そして右手はなるべくそっと楽器に添えるだけになるようにしましょう。

タンギング

タンギングはリードが空気の流れによって振動し始めるきっかけを与えてあげるテクニックです。息を入れ始めると同時にリードの先端に当てていた舌を離すことでリードが振動を始めます。リードに舌をぶつけるのがタンギングではなく、リードに触っている舌を離すのがタンギングですので誤解しないようにしましょう。

pp、mf、ff、テヌート、スタッカート、アクセント、など色々な演奏表現がありますが、舌を柔らかくリードから離すタンギングの動作には大きな違いは無いと考えます。
演奏表現の大きな違いとなって聞こえてくるのに大きく関わってくるのは実は息です。
息の量が少なければpp。多ければff。息を出してる時間が長ければテヌート。短ければスタッカート。発音の瞬間に息の量が多くて元に戻るのがアクセント。
アクセントは舌を強くリードにぶち当てれば表現できると誤解しやすいので注意です。いくら力強く舌をぶつけても汚い発音になるだけで息が入ってないのでかえって小さく目立たない音になってしまう現象が発生します。

息の入れ方

タンギングしたと同時に息を出すのですが、どのようにすると良いでしょうか。
元N響のレジェンド霧生先生の教えにこのような言葉があります。

「吹こうとすると不幸になる」。

吹くことに大変苦労してきた自分にとって大変示唆に富んだ言葉でした。
一生懸命息を入れようとすればするほど苦しくなりゼーゼーハーハー。全身疲労困憊です。

もしかするとリードに向かって息を入れようと努力しないことが幸福の鍵かもしれません。
息を入れると、楽器側からはそれに抵抗する力が発生します。
ここからはイメージの話になるのですが、リードに向かって息を吹き込んでいるのではなく、楽器からの抵抗力を利用して逆にリードから自分の口の中に向かって空気が吹き出してくるような感覚をイメージで捉えます。
そのリードから出てくる風が上顎の後ろの方にある柔らかい軟口蓋のあたりに当たってその空気に押されて後頭部の方向に柔らかい壁が押し広げられると感じられたら最高です。ゴム風船の壁が内側から空気で押し広げられるようなイメージです。当たった空気に耐えるのではなく押し広げられるにまかせる感じです。
その柔らかい壁が空気の量が増えたりスピードが増えたりすると勝手に広がり空気の量が減ると少し戻ります。まるで車のサスペンションやクッションのように圧力を最適な状態に素早く自動調節してくれるとても有能な装置になってくれるでしょう。
圧力が自動調節されるようになると、息を入れる力と楽器から抵抗される力が釣り合うようになります。この安定状態の時、息を入れようと思っていないのに自然にスーッと勝手に息が持続するような快適な感覚になるでしょう。

それでは息を楽器に吹き込もうと努力するとどうなるかというと、先ほど出てきた軟口蓋のあたりがリードの方向に向かって押し出されギューっと拳を握りしめたように力が入ってしまいます。こうなると空気の流れは安定せず体全体がガチガチに力み音を出すのに必死という状態に陥りやすくなります。

音の切り方

では発音して出ている音はどうやって切るのでしょう。
舌で止めるとブザーの音が鳴り止むときのようにブチっと人工的な切り方に感じます。英語の単語で言うと子音の[〜t]で終わる感じですね。
レッスンでは子音の[〜h]無音のハッで終わるようにイメージすると舌を使わなくてもキレイに音を切ることができると教えています。

アー、オー、イー、音の伸ばし方には色々な母音のイメージがあると思いますが、音を切る時に[〜h]を利用すると口の中の形がほとんど変わらず美しく切ることができます。音を切る時に唇にも無理な力が働かないので楽器が振動していた残り香で勝手に余韻をつけてくれます。
余韻を人工的につけようとすると、ターーン[〜ing]のように英単語の現在進行形のなになにイングみたいに喉が大きく上下に動くことをしてしまいがちです。音を切る瞬間に音程が上ずるし何より音を切るごとに喉をいちいち大きく動かしてたら素早い音の連打は不可能になってしまいます。

音を切る時に口の中の形がほぼ変わらないというのは持続して演奏するためにはとても重要です。
ただ、ポピュラー音楽や、クラシック音楽でも場面によっては[〜t]で切る方がより効果的に聴こえるシーンもありますのでその時は臨機応変に使いましょう。

終わりに

ここまで、体の状態。発音〜音の持続〜切る。という本当に極々基礎的な事のみをまとめました。ファゴットの運指のテクニックやリードのことなどもっと専門的なことまでは触れませんでした。

自分の体の内側は目に見えないけれど心の目で観察しどう動いているかということを理解することは楽器を吹いていく上でとても大切で、一生求め続けるものだと思うからです。

実は今回まとめたことは、ファゴットに特化したアンブッシュアの形や構え方を除けば管楽器全てに共通する考え方が含まれているかもしれません。
喉の状態や姿勢に関しては弦楽器や鍵盤楽器、はたまたスポーツでも関係してくるのではと自分は想像しています。

自分は普段の体の状態と楽器を吹く時の体の状態がとてもかけ離れているのでいつも大変苦労しているのですが、もしこれが一致していたとしたら余計なことに悩まず音楽に100%集中できるのにな、と常々思います。
自分勝手な想像ですが、体の状態が普段と一致しているということが運動神経が良いということなのではないだろうか?とさえ思ったりします。
人によっては今回まとめたようなことをいちいち考えなくても自然に普段の体の状態と変わらずできるよ、と思う人もいると思います。もしそうならばそれで問題ないので必要だなと思うところだけ摘んでくれたら良いと思います。

皆さんの演奏ライフが実りのある豊かなものになることを願っています。


森 純一

管弦打楽器学科 講師

Profile

岐阜県下呂市出身。武蔵野音楽大学器楽科ファゴット専攻卒業。これまでに、渡邊 聖子、岡崎 耕治、山畑 馨、ジェラルド・コーリー、ミラン・トゥルコヴィッチ、ヘンリック・ラビーンの各氏に師事。大学在学中の1992年、第9回日本管打楽器コンクールファゴット部門で第3位入賞。1993年、大学卒業と同時に新星日本交響楽団に入団し、翌年より副首席奏者を11年間務める。1996年と2013年にアフィニス夏のセミナー、1998年にザルツブルク夏のセミナーに参加し研鑽を積む。2006年、飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラとモーツァルトのファゴット協奏曲を共演。現在、東京フィルハーモニー交響楽団ファゴット奏者。